氷解

日々の思考を垂れ流すゴミ箱

時間の感じ方は楽しいときと辛いとき、どちらが長い?

こんばんは、ヒグラシです。

 

テレビで、もうじきロシアのウクライナ侵攻から1年が経つというニュースが流れていました。侵攻開始とされているのが2022年2月24日とのことなので、あと2週間ほどで丸一年です。

私はそれを見て「もう一年もやっているんだな」と思いましたが、ニュースの中でインタビューを受けていたブチャの方が、涙ながらに「この戦争で夫を亡くしました。戦争が始まってまだ一年なんです」と言っているのを聞いて少し思うところがあり、風呂に入りながら標題のようなことを考えていました。

 

1 ジャネの法則へのアンチテーゼ

 ジャネの法則というものがあります。Wikipediaによればフランスの哲学者、ポール・ジャネが発案した、人間の時間の感じ方に関する心理学的現象に対する一つの考え方です。

 よく「年を取ると一年が短く感じる」と言われますが、その現象をジャネは以下のように説明しました。「生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢に反比例する」と。つまり5歳の子供にとって1年は人生の20%を占める長い時間だが、50歳の大人にとって1年は人生の2%に過ぎないから、年を取ると1年が短く感じるのだと。

 私がこの話を知ったのはもう10年くらい前になりますが、「ほおーなるほどなあ」と感心したのを覚えています。そしてさっき風呂に入る時まで何の疑問も持ちませんでした。

 

 しかし、私は湯船につかりながら、唐突に「この法則は間違っているのではないか?」と思いました。なぜならば、ジャネのいう「生涯」という分母は年を重ねるごとに大きくなるからです。

 上にあげた具体例を使って説明するならば、5歳の子供にとっての「生涯」とは客観的には5年であり、50歳の大人にとっての「生涯」とは客観的には50年ということです。何を当たり前のことを言っているんだと思うかもしれませんが、ジャネの説明はあたかも「生涯」という枠の大きさが初めから固定されていて、それを年齢で分割するから1年あたりの比率が小さくなると言っているにすぎないということです。

 仮に、生まれてから現在までの記憶が全て漏らさず頭に残っている完全記憶能力の持ち主がいたとしましょう。その人にとっては、「生涯」の枠は5歳の時は5年、50歳の時は50年なのですから、5歳の時の1年は当然5÷5=1ですし、50歳の時の1年は当然50÷50=1です。つまり記憶が1秒1秒刻々と脳に刻み込まれていることを前提にすれば、時間の感じ方は一生変わらないはずだということです。

 

2 「記憶に残らない」ということの意味

 では、なぜ我々は年を取ると1年が短く感じるのでしょうか。「人間は昔の記憶を忘れていくから」でしょうか?

 それは違います。仮に、直近80分の記憶しか頭に残らず、それよりも昔のことは古いものから消えていってしまう、悲劇の人がいたとしましょう。その人にとっての人生の記憶、これはつまりジャネのいうところの「生涯」と同義になるわけですが、これはジャネの説明通り80分という枠組みから固定されてずっと動かないわけです。ずっと動かないということは、その人にとって直近5分の記憶というのは、常にその人の人生の5/80=6.25%であり、その人の時間の感じ方もずっと変わらないはずだからです。

 ちなみに、なぜこんな分かりにくい数字で例えたのか気になる人は、「博士の愛した数式」という小説を読んでみることをオススメします。

 

 じゃあ一体なぜ1年が短く感じるんだ、これはそう思い込んでいるだけなのか?

それも違います。答えは「新しいことが記憶に残らなくなっていくから」です。

 「は?」と思いましたか?

 我々人間は目覚ましく発展する技術の進歩によって自然の驚異から解き放たれ、整備された社会や法によって生命が脅かされない安全な日々を過ごしています。しかしそれは同時に刺激のない生活に繋がり、やがて「慣れ」「飽き」というぜいたくな悩みに苛まれることになります。

 昔はワクワクでいっぱいだった電車のお出かけも、お気に入りのラーメン屋の味も、学校も、仕事も、全部そのうち慣れてきてしまうのです。日々の中に占める「慣れ」の割合が大きくなっていくと、一日の感情の動きが小さくなり、感情の動きが小さいと記憶にも残らない、記憶に残らないから1年を振り返った時に「もう一年も経ったのか」と思う訳です。

 

3 楽しいときと辛いとき、どちらが長い?

 ここまで話せば、いよいよ記事のタイトルにもなっている本題です。本題です、と仰々しく言いましたが、こればっかりは人それぞれだというほかないです。雑な結論で申し訳ない。

 ですが、一般的には「楽しい時間はあっという間だね」「辛いときは時間が長く感じるよ」と言ったりします。私の体感としても「辛いとき」の方が長く感じる気がします。私がこれまで長々話してきた考え方に基づけば、時間を長く感じるということはその分だけ記憶が強烈に残っているということです。記憶に残るということは、それまでの人生での経験が少ない、慣れていないということになりますよね。

 だからといって、楽しんでいるときの記憶が全然残っていない人が多いとまで主張するつもりはありませんよ。だからこそ、結論は人それぞれだと思います。

 

 ただ、もしかすると楽しい時間をあっという間に感じるということは、それだけ幸せな人生を送っているということなのかもしれませんね。

 ウクライナの方々にとってこの一年は、どのくらい長いものだったのでしょうか。これから先の一年はどのくらい長く感じるのでしょうか。

 早く平和が戻ってほしいと、そんなことを思いました。